いものびと講座1
1-1 鋳物のつくりかた
「鋳造」という言葉を聞いたことはありますか?
たぶん小学校や中学校でこの言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。
工場見学や社会の授業の中で「鋳造」という言葉は使われていました。
それは、奈良の大仏,自動車のエンジンなどが鋳造という方法法で作られているので、その際の説明の中で見たり聞いたりしているのです。
その「鋳造」の工程を図で説明しましょう。

このような行程で 鋳物 (いもの)は製造されます。
原理的にはどのような形のものでも作り上げることができます。
さてこの 鋳物 の歴史は長く,ずいぶん昔から作られています。
銅をたとえば,先にも挙げた奈良の大仏。大仏は銅合金を用いて鋳造によって作られています。
また江戸時代でも茶道で使用する茶釜なども鋳造により作られていました。
その技術は形を変えながら現在に至っています。
1-2 普通鋳物
鋳造により作られた製品は,すべてが鋳物(いもの)と呼ばれます。
その中で鉄のものを鉄鋳物、または銑鉄鋳物(せんてついもの)と分類し、普通鋳物、鋳鉄(ちゅうてつ)と呼んでいます。特別な処理を施していない一般的なものをさします。
普通鋳物といえば,主に「ねずみ鋳鉄」を指します。
対してダクタイル鋳鉄などは, 特別な処理を施してあるため,普通鋳物には含めません。
普通鋳物(ねずみ鋳鉄)には次のような分類があります。(JIS G 5501)(1995)
ねずみ鋳鉄品の機械的性質
種類の記号 | 引張強さ (N/mm2) | ブリネル硬さ HB |
---|---|---|
FC100 | >100 | <201 |
FC150 | >150 | <212 |
FC200 | >200 | <223 |
FC250 | >250 | <241 |
FC300 | >300 | <262 |
FC350 | >350 | <277 |
上記のFC100は強さや硬さを問題としない一般用鋳物, それ以外は機械部品用に使用されます。
1-3 鋳鉄の特徴
ここでは普通鋳物の特性について,鋼と比較してみます。
普通鋳物(鋳鉄)の特長
1.複雑な形状のものが比較的安価で製造できる
2.どんな形のものでも作ることができる
3.振動を押さえる効果が大きい
4.加工しやすい(削りやすい)
以上のような長所がありますが,逆に短所もあります。
鋳鉄の欠点
1.もろい(鋼に比べて折れやすい)
2.加工が必要(そのまま製品として使えない場合が多い)
上記の折れやすい、という欠点を補った鋳鉄もあります。それが「ダクタイル鋳鉄」です。
添加物を加えることにより金属組織を変化させ,鋼に近い性質を持たせています。 現在,強度の必要な鋳鉄部品の多くは「ダクタイル鋳鉄」により作られています。
では、ダクタイル鋳鉄とはどんなものなのでしょう?
1-4 ダクタイル鋳鉄
正式名称は「球状黒鉛鋳鉄」といいます。 字の通り、鋳鉄中の炭素の結晶が球状になっている鋳鉄です。”それだけ?”という印象を持たれる方が多いと思います。が、 これは非常に重要なことなのです。
普通の鋳鉄は片状黒鉛鋳鉄と呼ばれ,黒鉛が不規則にかたまりを作ります。たとえが悪いのですが, ミミズのような感じです。またはバラの花びらといった方が美しいでしょうか。
普通鋳物がもろい原因はその黒鉛の形状にあります。
鋳物中の黒鉛は鉄よりももろい物質ですので、鋳物に力が加わるとその花びら状の黒鉛を起点にヒビ割れしてしまいます。鋳物中の黒鉛はつながっているので、いとも簡単に割れてしまうのです。
その花びら状の炭素を球状にしたものが「ダクタイル鋳鉄」です。
鋳物中の黒鉛が球になるため、ほかの黒鉛とつながることがありませんので、割れにくくなります。
ダクタイル鋳鉄は普通鋳物と比較して強度・伸びともに大幅に向上した鋳鉄です。
「黒鉛を球状にする」ことにより、鋳物は今まで鍛造や溶接で作られていたものに取って代われるようになりました。そして現在,ダクタイル鋳鉄の需要は着実に伸びています。
細かい性質などは、ダクタイル鋳鉄ページにあります。
興味を持たれた方はぜひご覧になってみてください。